大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和42年(わ)568号 判決

本店所在地

愛知県一宮市大和町馬引二一六五番地の二

株式会社 佐々製作所

右代表者代表取締役

佐々博紀

本籍

愛知県一宮市栄町一丁目一一番地

住居

同市大和町馬引二一六六番地の一

会社役員

佐々謙次

明治三四年一月三一日生

右両名に対する昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法違反被告事件につき当裁判所は検察官高野治男出席のうえ審理をおわり次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社佐々製作所を罰金一、〇〇〇万円に、被告人佐々謙次を懲役一年及び罰金四〇〇万円に処する。

被告人佐々謙次が右罰金を完納できないときは金一万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人佐々謙次に対し三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社佐々製作所は昭和三八年八月二〇日設立され、自動車部品製造並びに加工、販売などを目的とする資本金三〇〇万円の株式会社(設立当初の本店所在地、愛知県一宮市大和町馬引二一六六番地の一、昭和四三年一一月二一日株式会社テイーエヌ製作所と商号変更、同日付右登記、同四四年一月二六日、再び株式会社佐々製作所と商号変更同時に本店所在地を肩書地に移転、同月二七日付右各登記)であり、被告人佐々謙次は同会社設立以来昭和四二年四月四日辞任(同月六日右登記)するまで同会社代表取締役として同会社の業務全般を統括掌理していたものである被告人佐々謙次は被告人株式会社佐々製作所の売上、加工賃収入などの一部を秘匿したりなどして同会社の法人税を免れようと企て、

第一、 昭和三九年四月三〇日所轄一宮税務署において同署長に対し、同会社の同三八年八月二一日から同三九年二月二九日までの第一期事業年度における法人税の確定申告をなすに当り、同事業年度における同会社の実際の総所得金額は三〇、七三八、七六五円(これに対する法人税額は一一、六二二、三六九円)であるのに、同会社の取引先である名古屋ゴム株式会社などに対する売上加工賃収入などの一部を除外し、あるいは架空仕入を計上し、それらを社長未払金勘定で処理するなどしたうえ、その総所得金額を五、四二五、九八八円(これに対する法人税額は二、〇一一、八四〇円)と虚偽の記載をした法人税確定申告書を提出し、もつて同会社の業務に関し不正の行為により、正規に納入すべき法人税額と右申告にかかる虚偽の総所得金額にもとづき算出される法人税額との差額九、六一〇、五二九円の法人税を免れ、

第二、 同四〇年四月三〇日所轄一宮税務署において同署長に対し、同会社の同三九年三月一日から同四〇年二月二八日までの第二期事業年度における法人税の確定申告をなすに当り、同事業年度における同会社の実際の総所得金額は一二五、二四一、五二五円(これに対する法人税額は四七、〇八五、五〇九円)であるのに、同会社の取引先である米島フエルト産業株式会社などに対する売上、名古屋ゴム株式会社からの加工賃収入などの一部を除外し、あるいは架空仕入を計上したりなどしたうえ、その総所得金額を三二、六九七、六二〇円(これに対する法人税額は一一、九一七、八四〇円)と虚偽の記載をした法人税確定申告書を提出し、もつて同会社の業務に関し不正の行為により、正規に納入すべき法人税額と、右申告にかかる虚偽の総所得金額にもとづき算出される法人税額との差額三五、一六七、六六九円の法人税を免れ、

もつていずれも逋脱したものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき(不正経理の状況)

一、 被告人佐々謙次の当公判廷における供述

一、 第二回公判調書中の被告人佐々謙次及び被告人株式会社佐々製作所代表者代表取締役佐々健雄の各供述部分

一、 名古屋法務局一宮支局登記官作成の登記薄謄本(昭和四四年二月一二日付)

一、 被告人佐々謙次の大蔵事務官に対する質問てん末書五通及び検察官に対する供述調書二通

一、 鶴見鉦一の大蔵事務官に対する質問てん末書七通(但し昭和四〇年一〇月一三日付第一問の問答、同四一年二月八日付第二問の問答を除く)及び検察官に対する供述調書三通

一、 丹下末男の大蔵事務官に対する質問てん末書四通(但し昭和四〇年一〇月二六日付第四問の問答同年一一月二五日付第四問、第五問、第七問の各問答同四一年二月一〇日付第八問の問答を除く)及び検察官に対する供述調書(昭和四二年四月一四日付但し第八項を除く)

一、 佐々健雄の大蔵事務官に対する質問てん末書五通及び検察官に対する供述調書二通

(判示第一の事実の申告状況、脱税額、逋脱額の明細につき)

一、 一宮税務署長作成の証明書(但し記録証第一五一号)

一、 大蔵事務官作成の脱税額計算書(但し、自昭和三八年八月二一日至昭和三九年二月二九日)

一、 中沢克巳の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、 被告人佐々謙次作成の上申書(自昭和三八年八月二一日至昭和三九年二月二九日分)

(判示第二の事実の申告状況、脱税額、逋脱額の明細につき)

一、 一宮税務署長作成の証明書(但し記録証第一五三号)

一、 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和四四年二月八日付)

一、 林市太郎の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、 被告人佐々謙次作成の上申書(自昭和三九年三月一日至昭和四〇年二月二八日分)

(判示第一、第二の売上関係につき)

一、 小川和男、足立光子、今道正典、筏和子、前田常明作成の各上申書

一、 押収してある市販売上除外分売掛帳(昭和四三年押第一一五号の一一)一冊

一、 押収してある「売上除外分明細高松工業所」と題する書面(同号の一二)

(判示第一、第二の加工賃収入関係につき)

一、 加藤雅秋作成の上申書

一、 東海銀行江南支店長石黒高男(加藤国章)作成の普通預金表写(証第一一二号)

(判示第一、第二の雑収入関係につき)

一、 東海銀行江南支店長石黒高男(加藤国章)作成の普通預金表写(証第一一二号)

一、 一六銀行尾西支店長高井義明(亀井広吉)作成の普通預金元帳写(証第一二六号)

一、 第一銀行一宮支店長矢野慎一(吉田義雄)作成の普通預金元帳写(証第一一六号)

一、 十六銀行常務取締役関谷文一郎(阿部力雄)作成の定期預金記入帳、普通預金元帳写(証第一二五号)

一、 一宮信用金庫神明津支店長江崎政市(山田保代)作成の普通預金元票写(証第一三〇号)

一、 大和銀行一宮支店長阿波野豊(木村春久)作成の普通預金、定期預金、指定金銭信託元帳写(証第一二七号)

一、 第一銀行一宮支店長矢野慎一(河野裕広)作成の定期預金元帳写(証第一一一号)

一、 岩崎昭作成の上申書

一、 押収してある市販売上除外分売掛帳(昭和四三年押第一一五号の一一)一冊

(判示第一、第二の架空仕入、仕入過大計上関係につき)

一、 鈴木義一、相原憲治、岩崎昭の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、 岩崎昭作成の上申書

一、 江原直弘作成の調査報告書二通及び浅野鉦一作成の調査報告書

一、 押収してある第一期決算修正伝票(昭和四三年押番一一五号の五)一級、同総勘定元帳(同号の四)一冊

一、 押収してある「重要資料(支払関係外注先その他)」と題するもの(同号の一)一級、同仕入帳(同号の二)一冊、同第二期決算作成資料(同号の三)一綴

(判示第二の事実の薄外期末棚卸商品在高について)

一、 丹下末男の検察官に対する供述調書(昭和四二年四月二一日付)

一、 鶴見鉦一の検察官に対する供述調書昭和四二年四月七日付第一、二項

一、 佐々博紀の検察官に対する供述調書

一、 佐々健雄の検察官に対する供述調書昭和四二年四月一五日付第四項

一、 被告人佐々謙次、被告人株式会社専務取締役丹下末男作成の申立書

一、 押収してある第二期四〇年二月期棚卸表(昭和四三年押第一一五号の一四)

(判示第二の別口預金に対する利息収入関係につき)

一、 東海銀行江南支店長石黒高男(加藤国章)作成の普通預金表写(証第一一二号)

一、 十六銀行尾西支店長高井義明(亀井広吉)作成の普通預金元帳写(証第一二六号)

一、 第一銀行一宮支店長矢野慎一(吉田義雄)作成の普通預金元帳写(証第一一六号)

一、 第一銀行一宮支店長矢野慎一(河野裕広)作成の定期預金通知預金元帳写(証第一一四号)及び定期預金元帳写(証第一一五号)

一、 十六銀行常務取締役関谷文一郎(阿部力雄)作成の定期預金記入帳普通預金元帳写(証第一二五号)

一、 一宮信用金庫神明津支店長江崎政市(山田保代)作成の普通預金元帳写(証第一三〇号)

一、 中央信託銀行株式会社一宮支店秋野静夫作成の貸付信託申込書指定金銭信託申込要旨届印鑑、指定金銭信託元帳(証第一三一号)

一、 中央信託銀行株式会社岐阜支店長長谷川光雄作成の定期預金印鑑紙、貸付信託申込書、指定金銭信託(合同運用)元帳写(証第一三二号)

(判示第一の薄外期首棚卸商品在高につき)

一、 押収してある棚卸明細表(昭和四三年押第一一五号の八)一冊

(判示第一、第二の外注加工賃関係につき)

一、 押収してある裏仕入の明細表薄外外註費明細表(昭和四三年押第一一五号の六)一冊、同判取帳(同号の九)一冊

(判示第二の仕入代金関係につき)

一、 押収してある裏仕入の明細表、薄外外註費明細表(昭和四三年押第一一五号の六)一冊

(判示第一、第二の接待交際費、旅費交通費、福利厚生費、試験研究費、諸雑費、不明経費関係につき)

一、 押収してある別口預金の出金明細(昭和四三年押第一一五号の七)一綴、同会社名義普通預金明細(同号の一〇)同別口普通預金明細(同号の一三)

(判示第二の修繕費につき)

一、 波多野元助作成の上申書

(判示第二の減価償却費、未納事業税につき)

一、 昭和三八年八月二一日から同三九年二月二九日までの事業年度分の事業税の修正申告書

一、 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和四四年二月八日付)添付の「犯則所得の内訳」と題するもの(弁護人の主張に対する判断)

一、 まず弁護人は「被告人株式会社佐々製作所の昭和三九年三月一日から同四〇年二月二八日までの第二期事業年度における薄外期末棚卸商品在高は六二〇万円相当であつた」旨主張し、証人丹下末男、同鶴見鉦一の当公判廷における供述は右主張に沿う如くであるが、右両証人の供述内容は相互に矛盾しているのみならず、右在庫品出納に当つていた佐々博紀の検察官に対する供述調書の記載内容と相当の食違いがあり、到底措信し難くかえつて証拠として挙示した丹下末男、鶴見鉦一の検察官に対する供述調書中の薄外棚卸商品在高についての供述記載はその内容及び右供述がなされるに至つた経緯よりして充分措信しうるところである。

二、 次に弁護人は「右第二期事業年度における薄外期末棚卸商品在高八一〇万円は第二期の所得計算上、益金として二重に計上計算されている。」と主張するが、これは名古屋国税局が名古屋地方検察庁に本件告発をなした段階において、右第二期々末薄外棚卸製品在高を八六〇万円相当と認定したうえ、それをいわゆる準犯則所得として処理していたものを起訴に当り、右第二期々中消費分五〇万円相当分を控除したうえ、残余の八一〇万円相当分の第二期々末薄外棚卸商品在高をいわゆる犯則所得としたというに過ぎないものであつて、弁護人主張の如く二重に計上計算されているものではない。(その明細は別紙計算書記載のとおりである。)

三、 次に弁護人は「逋脱犯の総所得金額は税務計算上の総所得金額と一致するか、それより少額でなければならないのに、右第二期事業年度においては起訴にかかる総所得金額が税務計算上の総所得金額より多額となつているがこれは不合理である」と主張する。しかし税務計算上、当該事業年度における総所得金額を鑑定する所以は適正、公正な課税と徴税とをおこなうためのものであり、刑事上総所得金額を確定する所以は、それによりいわゆる犯則所得額を算出し、逋脱犯成立の有無及び適正な処罰をなすがためのものであつて、両者はその目的を異にするのみならず、証拠法則などその手続も異なるものであり、しかも国税局の証拠の評価と裁判所のそれとが異なることがあるのも当然であつて、それがため事実認定のうえで、刑事上の総所得金額が税務計算上の総所得金額より少額になることがあるのはもちろん、時には多額になることがあるのは当然であつて、税務計算上の総所得金額より刑事上のそれが多額であることをもつて不合理であるということはできない。

尚、弁護人が損金として認容すべきであると主張する第二期事業年度期首薄外棚卸商品についてはその存在を認めるに足る証拠はなく、又国税局において準犯則、その他所得として処理されている他の勘定科目についても同様であつて、いずれも犯則所得(犯則損金)として認容することはできない。

以上の次第で弁護人の右各主張はいずれも採用できない。

(法令の適用)

被告人佐々謙次の判示各所為はいずれも法人税法附則第一九条により昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法第四八条第一項に、被告人株式会社佐々製作所は同法第五一条第一項(第四八条第一項)にそれぞれ該当し、判示第一、第二ともその免れた法人税額が五〇〇万円をこえ情状により同法第四八条第二項を適用するのが相当であるところ、被告人佐々謙次についてはいずれも懲役刑と罰金刑とを併科することとし、なお以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから被告人佐々製作所については同法第四八条第二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同被告人を罰金一、〇〇〇万円に処し、被告人佐々謙次については懲役刑につき同法第四七条本文、第一〇条により重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金につき同法第四八条第二項により各罪所定の罰金額を合算し、その加重した刑期及び合算額の範囲内で同被告人を懲役一年及び罰金四〇〇万円に処し、同被告人が右罰金を完納することができないときは同法第一八条により金一万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、なお情状により同法第二五条第一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して被告人両名の負担とする。

(なお、地方税法第七二条の二二第三項、第七二条の一八第四項は「前項の月数は、暦に従い計算し、一月に満たない端数を生じたときは一月とする。」と規定するところ、右規定によると被告人株式会社佐々製作所の第一期事業年度分の犯則所得(損金)となる事業税額は四、〇六七、一五〇円となり従つて第二期事業年度の総所得額は一二五、二四九、〇四五円となるが、起訴にかかる総所得金額の限度で認定する。)

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川潤 裁判官 三村健治 裁判官 太田雅利)

(別紙)

計算書

〈省略〉

(検察庁起訴額内訳犯則所得中の「他の犯則所得額」が国税庁告発額内訳「犯則所得計」と相違するのは訴因変更のためである) △印はマイナスを示す。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例